日こんにちは、テレグラム株式会社の山岸です。
シリーズコラム第5回となる今回は、技術論から少し視点を広げて、ファッション産業が抱える「大量廃棄」という構造的課題について、世界の最新動向と私たちの取り組みを交えながらお話しします。
これまでのコラムで、ものづくりの工程、裁断技術、CADによる設計革命について触れてきました。
これらすべての技術進化が目指している先には、「無駄なく、責任ある、循環するものづくり」という共通のゴールがあります。
今回はそのゴールに向けた、業界全体の挑戦と変革の姿を見ていきましょう。
数字が語る、ファッション産業の現在地
まず、世界のファッション産業の現状を最新データで確認しておきます。
国連環境計画(UNEP)とエレン・マッカーサー財団の報告によれば、世界では年間約1,000億点以上の衣服が生産され、そのうち約9,200万トンが廃棄物となって埋立地や焼却施設に送られています。
これは1秒あたりトラック1台分の衣服が捨てられている計算です。
さらに衝撃的なのは、生産された衣服のうち約30%が一度も販売されずに廃棄されているという事実です。
在庫リスクを恐れた過剰生産、シーズン在庫の処分、サンプル品の大量廃棄——いずれも構造的な問題として根深く存在しています。
水資源への影響も深刻です。
Tシャツ1枚の生産に約2,700リットルの水が必要とされ、これは一人の人間が約2年半飲める量に相当します。
ジーンズ1本では約7,500リットル。
染色工程は世界の水質汚染原因の第2位とされ、河川の青や赤の色を見れば「今シーズンの流行色がわかる」と言われるほど、産業排水が環境に直接影響を与えています。
そして労働環境の問題。
世界のアパレル労働者の約8割が女性で、その多くが最低生活賃金を下回る水準で働いています。
2013年のバングラデシュ・ラナプラザ崩落事故(死者1,134人)以降、業界の構造的問題が世界的に注目されましたが、十数年経った今も完全には解決されていません。
世界の法規制が動き出した|「責任ある生産」の義務化
こうした状況を受けて、2020年代に入り、世界各国でファッション産業への法規制が急速に整備され始めています。
フランスは2020年にAGEC法(循環経済法)を制定し、世界で初めて売れ残り衣料の焼却・埋立を禁止しました。
さらに2023年からは衣料品への環境ラベル表示義務化が段階的に始まっています。
EU全体では、Ecodesign for Sustainable Products Regulation(ESPR)が2024年に発効し、2027年以降、繊維製品へのデジタル製品パスポート(DPP)の義務化が進む予定です。
製品の素材構成、生産地、環境負荷、リペア可能性などの情報を、QRコード等で消費者がアクセスできるようにする仕組みです。
米国では、ニューヨーク州がFashion Sustainability Act(通称ファッション法)を審議中で、年商1億ドル以上のブランドにサプライチェーン開示と環境負荷削減を義務付ける内容です。
日本でも経済産業省が「繊維製品の資源循環システム検討会」を立ち上げ、繊維リサイクル制度の構築を進めています。
2025年大阪・関西万博でも、繊維のサーキュラーエコノミーが主要テーマの一つとして取り上げられました。
「サステナビリティはマーケティングのスローガン」だった時代は終わり、「法律で義務化される国際標準」へと急速に移行しています。
過剰生産はなぜ起きるのか|構造を理解する
そもそも、なぜファッション産業はこれほど大量に作りすぎてしまうのでしょうか。
最大の理由は、「需要予測の難しさ」と「機会損失への恐怖」にあります。
在庫が足りなくて売り逃すリスクと、在庫を抱えて廃棄するリスクを比べたとき、多くのブランドは前者を恐れて多めに作る選択をしてきました。
加えて、ファストファッションの台頭が状況を加速させました。
年間2シーズン制だった業界が、4シーズン、12シーズン、そして週単位の新作投入へと加速し、「Ultra Fast Fashion」と呼ばれる新興勢力は、デザインから店頭投入まで2〜3週間で回す体制を構築しています。
しかし近年、この構造そのものが見直され始めています。On-Demand Manufacturing(受注生産型製造)、Made-to-Order(個別注文生産)、Small-Batch Production(少量多品種生産)——これらが新しい業界の標準として広がりつつあります。3Dバーチャルサンプリングとデジタルプリント、自動裁断技術の進化が、こうした「作りすぎないものづくり」を技術的に可能にしているのです。
世界が実践する、新しいビジネスモデル
世界では、過剰生産・大量廃棄から脱却するための新しいビジネスモデルが次々と生まれています。
Patagonia(米国)は「Worn Wear」プログラムで自社製品の回収・修理・再販を仕組み化し、新品を売らない店舗まで運営しています。
同社CEOが「地球が唯一の株主」と宣言し、企業所有権を環境保全団体に移譲したニュースは世界に衝撃を与えました。
Stella McCartney(英国)は創業時から動物素材を一切使わず、マッシュルーム由来のレザー代替素材Myloや、藻類繊維、リサイクルカシミアなど、新素材の実装で業界をリードしています。
Eileen Fisher(米国)のRenewプログラムは、自社製品を回収して再販・再加工する循環システムを完成させ、ファッション業界における「ブランド主導の循環経済」のモデルケースとなっています。
The RealReal、Vestiaire Collective、Depopといったリユース・リセールプラットフォームは、もはやニッチではなく主流の購買チャネルへと成長し、特にZ世代の購買行動を大きく変えています。
日本でも、ファクトリエが「工場直結・顔の見えるものづくり」を掲げ、生産者と消費者をつなぐ新しいモデルを確立しています。
メルカリの繊維製品リセール市場は世界でも有数の規模に成長しており、日本の消費者文化が世界に先駆けて循環型へと向かっている側面もあります。
「もったいない」という日本の哲学が、いま世界を導く
実は、日本のものづくり文化には、循環経済の本質的な思想がもともと深く根付いています。
着物の世界では、一枚の反物を解いて仕立て直し、世代を超えて受け継ぐ文化があります。
生地が傷めば繕い(つくろい)、さらに古くなれば布巾や雑巾へ、最後は燃料にまで使い切る——この「使い切る文化」は、世界が今追い求めている循環型ものづくりの理想形そのものです。
金継ぎ(割れた器を金で繕う技法)、BORO(古布を継ぎ接ぎする刺し子文化)、さしこ(補強と装飾を兼ねた刺繍)——いずれも近年、欧米のラグジュアリーブランドから注目され、現代的に再解釈された商品が世界中で販売されています。
「もったいない」という言葉は、2004年12月10日にノーベル平和賞を受賞されたケニアの環境活動家ワンガリ・マータイ氏によって、2005年に世界共通語として広められました。
Reduce(減らす)、Reuse(再利用)、Recycle(再資源化)、Respect(敬意)——これら4つを一語で表現できる日本語の哲学が、いま世界の環境運動の中核に位置づけられています。
日本の繊維産業には、こうした文化的土壌の上に、最先端の繊維技術と精密なものづくりが融合する、世界に類を見ないポテンシャルがあります。
解決のための、新しい3つのアプローチ
過去のコラムでは「サステナブルファッション」「フェアトレード」「シェアリングエコノミー」という3つの方策を提示しました。
今回は、2020年代後半の現在地に立ち、より構造的・実装的なアプローチとして3つを再提案します。
1つ目は、「Demand-Driven Production(需要駆動型生産)」への転換です。
3D設計、AI需要予測、デジタルプリント、自動裁断を統合し、「売れる分だけを、必要なタイミングで作る」体制を構築することです。
これは技術的にすでに可能であり、あとは業界全体のマインドセット転換が課題となっています。
2つ目は、「Circular by Design(設計段階からの循環設計)」の実装です。
製品を作る段階から、修理しやすさ、分解しやすさ、再資源化しやすさを設計に組み込むこと。
単一素材化、機械的に分離可能な縫製、生分解性素材の活用——いずれも設計判断によって実現可能です。
3つ目は、「Transparency as Trust(透明性こそが信頼)」の徹底です。
デジタル製品パスポート、ブロックチェーン・トレーサビリティ、サプライチェーン開示——「この服は、誰が、どこで、どんな条件で作ったのか」を消費者が確認できる仕組みを当たり前にすること。
透明性は、もはやコストではなく、ブランド価値の源泉になっています。
テレグラム株式会社の挑戦
私たちテレグラム株式会社は、こうした世界の潮流に応えるものづくりを実践しています。
少量多品種生産への対応、デジタル技術による生地ロス最小化、お客様ブランドのサステナビリティ目標への伴走、ときにはリペア・リメイクへの協力、そして多業界(ファッション、インテリア、建築、航空宇宙)にわたるテキスタイル素材の有効活用——これらすべてが、私たちの日常業務の中に組み込まれています。
そして何より大切にしているのは、「一着の服、一枚の生地を、ぞんざいに扱わない」という現場の姿勢です。
CADの画面で型紙を操作するとき、自動裁断機にデータを送るとき、生地を延反するとき——その一手一手が、廃棄物を減らし、誰かの暮らしを豊かにする一歩につながっている。
そう信じて、日々ものづくりに向き合っています。
「捨てない未来」を、選び取る
ファッションは本来、人を喜ばせ、自己表現を支え、文化を育てる素晴らしい産業です。
だからこそ、その産業が地球と人を犠牲にしてはいけません。
「捨てる前提のものづくり」から、「捨てない未来のものづくり」へ——この転換は、もはや理想ではなく、世界中の法規制と消費者意識が同時に求める現実的な選択肢になっています。
技術、デザイン、職人技、デジタル、そして私たち一人ひとりの選択。
これらすべてが組み合わさったとき、ファッション産業は本当の意味で「美しい産業」へと生まれ変わるはずです。
次回以降のコラムでは、こうした循環型ものづくりを支える新素材とサーキュラーテクノロジーの最前線について、より具体的な事例とともにお届けする予定です。

