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設計とは、未来を先に見ること|世界のCAD最前線とAI時代のものづくり

こんにちは、テレグラム株式会社の山岸です。

 

シリーズコラム第3回となる今回は、私たちの仕事の出発点であり、近年最も劇的な進化を遂げている領域——CAD(Computer Aided Design/コンピュータ支援設計)について、世界の最新動向と現場の実感を交えながらお話しします。

 

CADと聞くと、多くの方は「製図ソフト」「2Dの設計ツール」をイメージされるかもしれません。
しかし2020年代後半の現在、CADはすでに「設計のためのソフトウェア」から「ものづくり全体を統合する知的プラットフォーム」へと姿を変えています。
AI、クラウド、3Dシミュレーション、そしてジェネレーティブデザイン——CADを取り巻くテクノロジーは、いまや業界の境界を超えて融合し続けています。


CADの歴史|設計図がデジタルになった半世紀

CADの歴史は、1960年代の米国MIT(マサチューセッツ工科大学)で開発されたSketchpadにまで遡ります。

当時はまだ研究室の中の実験技術でしたが、1980年代にAutoCADが登場したことで建築・機械業界に普及し、1990年代以降、アパレル・テキスタイル業界にも独自のCADが広がっていきました。

繊維業界においては、Gerber Technology(米国)、Lectra(フランス)、Optitex(イスラエル)、Tukatech(米国)、島精機製作所(日本)といったメーカーが業界を牽引してきました。

なかでも島精機のSDS-ONE APEXシリーズは、ニット業界において世界シェアトップを誇り、日本発の技術が世界の繊維産業を支えている代表例です。


世界の主要CADソフトウェア|国ごとの設計思想の違い

興味深いのは、各国・各社のCADソフトウェアにそれぞれの設計思想と文化が反映されていることです。

 

フランス・Lectraは、オートクチュールやラグジュアリーブランドが集中するパリの地で発展した経緯から、繊細なパターンメイキングと美意識を重視する設計が特徴です。

シャネル、ルイ・ヴィトン、エルメスといったメゾンの多くが採用しています。

 

米国・Gerber(現Lectraグループ)は、量産アパレル業界とともに発展した経緯から、生産効率とマーキング最適化に強みを持ちます。

 

イスラエル・Optitexは、3Dシミュレーション機能を早期から統合し、バーチャルサンプリングの先駆者として知られています。

 

韓国・CLO Virtual Fashionが開発したCLO 3Dは、近年最も急成長しているソフトウェアの一つで、3Dバーチャルフィッティングの業界標準になりつつあります。

 

中国・Style3Dは、巨大な中国市場とeコマースの需要を背景に、高速レンダリングと量産対応で世界市場に存在感を増しています。

 

日本・島精機は、「ホールガーメント」と呼ばれる無縫製ニット技術と一体化したCADソフトを展開し、設計から編立までを一貫制御できる独自のエコシステムを築いています。

 

このように、CADは単なるツールではなく、「その国のものづくり哲学を体現したソフトウェア」なのです。

 

 

2D から 3D へ|設計の次元が変わった

2010年代後半以降、CAD業界の最大の変化は「3Dへの完全移行」です。

従来の2D CADでは、パターンを平面上で設計し、実物のサンプルを縫製してフィッティングを確認するという物理的なプロセスが必須でした。

しかし3D CAD(CLO 3D、Browzwear、Style3D、Vidya等)の登場により、デジタル空間内で生地の物性を再現し、バーチャルアバターに着せてフィッティング検証ができるようになりました。

これがもたらしたインパクトは計り知れません。

物理サンプル数の削減、デザインリードタイムの短縮、グローバルチーム間のリアルタイム共有、そして大量の試作廃棄物の削減——いずれも数年前には不可能だった水準で実現されています。

世界的なファストファッションブランドの多くは、すでに「最初のサンプルは3Dデータのみで承認する」ワークフローに移行しており、ラグジュアリーメゾンでも3Dは「アイデアスケッチの新しい言語」として定着しつつあります。

 

 

AIが設計を変える|ジェネレーティブデザインの衝撃

そして2020年代に入り、CAD領域に最大の変革をもたらしているのが「AI(人工知能)」です。

ジェネレーティブデザインと呼ばれる新しい設計手法では、設計者が「軽量で、強度がこれだけ必要で、コストはこの範囲」といった条件を入力すると、AIが何百もの設計案を自動生成します。

航空宇宙産業や自動車業界ではすでに実用化されており、繊維産業でも、生地効率・耐久性・着用感を同時に最適化するパターンをAIが提案するソリューションが登場しています。

また、AIによる柄生成(テキストから繊維柄を生成する技術)、AIによる過去パターンの自動類型化と再利用、AIによる修正提案といった機能も、各社CADに次々と組み込まれています。

私たちの現場でも、ChatGPTやClaude、Copilot等の生成AIをCAD周辺業務に活用する場面が急速に増えており、「AIをどう使いこなせるか」がCADオペレーターの新しい競争力になってきています。

 

 

クラウドCAD|場所を選ばないものづくり

もう一つの大きな潮流がクラウドCADです。

Autodesk Fusion 360、Onshapeといった機械系クラウドCADの普及に続き、繊維業界でもBrowzwear VStitcherやCLO Setのようなクラウド連携プラットフォームが広がっています。

これにより、東京のデザイナー、埼玉の製造現場、イタリアの素材メーカー、ベトナムの縫製工場が、同じ3Dデータをリアルタイムで共有・修正できる時代になりました。

設計データはバージョン管理され、誰がいつどこを変更したかが追跡可能。製品のトレーサビリティと設計プロセスの透明性が、かつてないレベルで実現されています。

 

 

CADオペレーターという職業の進化

こうした技術環境の変化は、CADオペレーターという職業そのものを大きく変えつつあります。

かつてのCADオペレーターは、「指示通りに正確にパターンをデジタル化する」専門技能職でした。

しかし現在求められているのは、3D空間での設計判断ができる、AIツールを使いこなせる、グローバルチームとデジタル上で対話できる、そして生地特性とブランドの世界観を理解した上で設計に介入できる——いわば「デジタル時代の総合プロデューサー」としての役割です。

 

世界のラグジュアリーブランドでは、「3D Designer」「Digital Pattern Designer」「Virtual Atelier Director」といった新しい職種が次々と生まれており、これらは従来のデザイナーともパタンナーとも異なる、新しいクリエイティブ職として確立されつつあります。

 

 

設計とは、未来を先に見ること

CADという技術が究極的に意味するのは、「製造する前に、未来の製品を見ること」です。

紙とペンの時代、設計者は頭の中で完成形を想像するしかありませんでした。

2D CADの時代、設計者は平面上で形を確認できるようになりました。

3D CADの時代、設計者は立体空間で動きや陰影まで確認できるようになりました。

そしてAI時代の今、設計者は「複数の未来を比較検討し、最適な一つを選び取る」段階へと進化しています。

ものづくりにおいて、「先に見える」ということは、無駄を減らし、品質を上げ、判断を早めることに直結します。

これはコスト削減やリードタイム短縮といった経済的価値だけでなく、地球資源を無駄にしないという倫理的価値にもつながっています。

 

 

テレグラム株式会社のCAD活用

私たちテレグラム株式会社では、埼玉の拠点にて、今後、複数のCADソフトウェアを業界・用途・素材特性に応じて、迅速に自社導入(内製化)し、使い分けていく予定です。

ファッション、インテリア、建築・建設、航空宇宙——それぞれの業界が求める設計精度と品質基準は大きく異なり、最適なツール選定と運用ノウハウが、私たちの競争力の源泉になっています。

 

そして、CADは今後さらに進化していきます。

AIエージェントとの統合、リアルタイム3Dレンダリング、AR(拡張現実)連携、デジタル製品パスポート(DPP)対応——どれも数年以内に業界標準となるであろう技術です。

 

CADが切り拓くのは、単なる「効率化」ではありません。

それは、人が想像できる以上の精度と速度で、ものづくりの未来を現実に変えていく営みです。

 

次回以降のコラムでは、CADと並ぶもう一つの重要なデジタル技術——3Dシミュレーションとバーチャルサンプリングの世界を、より深く掘り下げてみたいと思います。